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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)1332号 判決 1993年2月22日

原告

佐向慶太

右法定代理人親権者母・原告

佐向里美

原告

佐向邦夫

右三名訴訟代理人弁護士

守山孝三

原告佐向里美訴訟代理人弁護士

金井塚康弘

被告

中村京子

藤井正之

右両名訴訟代理人弁護士

小野範夫

主文

一  被告らは、各自、原告佐向慶太に対し、金三四〇八万二九三五円及びこれに対する昭和六一年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに平成四年一一月から同人が死亡するまで毎月末日限り金七三万九〇〇〇円を支払え。

二  被告らは、各自、原告佐向里美に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六一年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、各自、原告佐向邦夫に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和六一年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

六  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

請求

被告両名は、原告佐向慶太に対し、金九六八五万二二二七円及びこれに対する昭和六一年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一  被告両名は、原告佐向慶太に対し、平成四年一一月一日から同原告死亡に至るまで、別紙将来の各月定期給付金月額一覧表記載の各当月分金員を毎月末日限り支払え。

一  被告両名は、原告佐向里美に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六一年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一  被告両名は、原告佐向邦夫に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六一年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

一  当事者の主張

請求原因

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一)  日時 昭和六一年三月二四日午後四時一五分ころ

(二)  場所 大阪府豊中市豊南町西一丁目六番二先市道(以下「本件道路」という。)上

(三)  加害車 被告中村京子(以下「被告京子」という。)が運転していた普通乗用自動車(大阪五三ひ八九一七号、以下「加害車」という。)

(四)  被害者 原告佐向慶太(以下「原告慶太」という。)

(五)  事故態様 原告慶太が本件道路を横断中、加害車と衝突した。

2  責任原因

(一)(1)  被告京子は、本件道路を東から西に向け加害車を運転して進行中、原告慶太が、本件道路の前記場所にある交差点(以下「本件交差点」という。)東側横断歩道上を北から南に向け横断しようとしているのをかなり手前から確認していたにもかかわらず、同人が加害車の進路前方付近に至るまで原告慶太の進路前方を通過することができないことに気付かず、原告慶太の動向の注視を怠り、また、徐行あるいは一時停止をすることもなく、漫然と進行したため、原告慶太を加害車前部で跳ね飛ばした。

(2) 被告京子には過失があり、これにより本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故による損害賠償責任を負う。

(二)  被告藤井正之(以下「被告正之」という。)は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき本件事故による損害賠償責任を負う。

3  原告慶太の受傷、治療経過及び後遺障害

(一)  受傷

本件事故により、原告慶太は、外傷性頸髄損傷、環軸関節脱臼、外傷性クモ膜下出血、脳挫傷の傷害を受けた。

(二)  治療経過

原告慶太は、本件事故による受傷の治療のため、昭和六一年三月二四日から現在まで入院している。

(三)  後遺障害

原告慶太は、昭和六二年五月三一日に症状固定と診断され、四肢麻痺及び無呼吸の後遺障害が残った。

4  原告慶太の損害(一時金請求の関係)

(一)  入院関係費

(1) 入院雑費 二九九万五二〇〇円

昭和六一年三月二四日から平成四年一〇月三一日までの二三〇四日間に一日当たり一三〇〇円の雑費を必要とした。

(2) 差額ベッド代

二九万三五三〇円

平成二年五月二四日から同年八月三一日までの差額ベッド代である。

(二)  入院付添費

四〇八三万六七二円

(1) 昭和六一年三月二四日から昭和六三年一〇月二三日までの集中治療室での治療を受けている間(九四五日間)に、原告慶太は、事故による受傷により言語不明瞭で手足が動かないため、危急の訴えを医師らでは理解できず、また、子供であり情緒不安定になるという特殊事情があったため、母である原告佐向里美(以下「原告里美」という。)の朝九時から夜九時までの付添を必要とし、そのために一日当たり五八五〇円が必要であったから、この間の付添費は五五二万八二五〇円となる。

(2) 昭和六三年一〇月二四日に原告慶太は、中間病室に移ったが、その後も、人工呼吸器の管が外れる場合等の監視等の必要から、平成元年二月二三日まで、原告里美と原告慶太の叔母である石間伏久代がそれぞれ一二時間ずつの二四時間体制による付添看護(一日当たり二名)を必要とし、一人一日当たり五八五〇円を必要としたから、この間の付添費は一四三万九一〇〇円となる。

(3) 平成元年二月二四日から平成二年四月三〇日までの間も、原告慶太は原告里美と石間伏久代による付添を必要としたが、同人らは熟練した職業付添婦並みの知識と技術を習得し、職業付添婦と同様の経験と労働をもって原告慶太に付き添っているから、その費用としては、職業付添婦の付添料と同等の一人一日当たり一万一〇円(平成元年六月一日からは、一万二三九円)とするのが妥当、適正であり、この間の付添費は一〇七九万七一二〇円となる。

(4) 平成二年五月一日から平成四年一〇月三一日まで、原告慶太は、職業付添婦による二四時間体制の付添看護(一日当たり三名)を必要とし、そのために二三〇六万六二〇二円を必要とした(職業付添婦の補充がつかないため、原告里美と石間伏久代も付き添った。)。

(三)  入院関係器具費

(1) 寝具購入費 一四万九三五〇円

マットレス、オーバーテーブル、特殊ベッド購入費用である。

(2) 人工呼吸器関係費

六六万四三〇七円

人工呼吸器オーバーホール代及び付属物品代である。

(3) オムツカバー代

一二万三六〇〇円

(4) 頸椎器具購入費

二万四四三〇円

(四)  寝台車及びタクシー代

一三万五一四〇円

淀川キリスト教病院受診、自宅療養、入学式参列等のため必要とした。

(五)  家屋改造費

七五五万七〇〇〇円

今後、自宅療養のための家屋改造に要する費用である。

(六)  逸失利益

三四七八万五〇四八円

原告慶太は、少なくとも、満二五歳までは生存するから、本件事故に遭わなければ得られた一八歳から満二五歳までの逸失利益は、平成二年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・男子一八歳及び一九歳の平均賃金二一七万六五〇〇円を基礎にホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息控除をして算出すると、九五五万九六二三円となる。

さらに、原告慶太は、六七歳まで就労可能であったが、本件事故のため、二六歳から六七歳までの四二年間の得られるべき収入をすべて失うに至ったから、その間の逸失利益を、平成二年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・男子二五歳の平均賃金三八五万七六〇〇円を基礎に、生活費として五割の控除を行い、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息控除をして算出すると、二五二二万五四二五円となる。

(七)  佐向翔吾関係の損害

(1) 監護費用 八四四万八〇〇〇円

原告慶太の弟の佐向翔吾(昭和五八年六月一四日生、以下「翔吾」という。)は、原告里美の監護を受けていたが、同人が原告慶太の付添をしなければならなくなったため、翔吾の監護のため、一日当たり三二〇〇円が必要となった。この監護は、翔吾が満一〇歳になる平成五年六月一四日まで計二六四〇日間必要である。

(2) 翔吾監護のための家賃増加分

四一二万五〇〇〇円

翔吾の監護をするため、原告慶太の祖母である石間伏美代子は、それまで住んでいた借家を解約し、原告ら一家と同居することとなり、原告らも従来住んでいた借家を解約し、二家族が住める借家を借りた。その結果、家賃として月額七万五〇〇〇円を余計に負担しなければならないこととなり、これは、昭和六三年一二月一日から翔吾が満一〇歳になる平成五年六月一四日まで五五か月間必要である。

(八)  原告佐向邦夫失業等による損害 一七一万四〇二七円

原告慶太の父である原告佐向邦夫(以下「原告邦夫」という。)は、原告慶太の度重なる手術に付き添わねばならない等のため、従来勤務していた岩田寝具を休まねばならない日が多くなり、そのため、昭和六一年一一月に退職しなければならなくなった。その後、昭和六二年五月になり、原告慶太の看護の手助けと勤務が両立する大阪ダイセイ株式会社に勤務できるようになったが、従来と比べて収入が減ることになった。

昭和六一年一二月から昭和六二年四月までの失業による損害(一三二万二六七三円)及び同年五月から平成元年四月三〇日までの減収による損害(岩田寝具で得ていた年収三一七万四四一七円から大阪ダイセイで得ることになった年収二九七万八七四〇円を除いた残額の二年分)の合計は右のとおりとなる。

(九)  慰謝料

(1) 症状固定までの慰謝料

三二五万七〇〇〇円

(2) 症状固定後の慰謝料

二五〇〇万円

5  原告慶太の損害(定期金請求の関係)

(一)  医療器具費

原告慶太は、今後、死亡するまで一か月当たり一二万三〇〇〇円の医療器具費を必要とする。

(二)  療養物品費

原告慶太は、今後、死亡するまで一か月当たり三二万四八一八円の療養物品費を必要とする。

(三)  付添看護費

原告慶太は、今後、死亡するまで一日当たり三名の職業付添婦による付添を必要とするところ、現在のところ、そのために一日当たり三万四六八〇円(一月当たり一〇四万四〇〇円)が必要であり、昭和六二年から平成四年までの職業付添婦の賃金上昇率は年約四パーセントであるから、将来にわたって同様の付添看護を受けるためには、右費用から一年毎に四パーセントずつ増加させた付添費用が必要である。

6  弁護士費用相当損害

一二〇〇万円

7  原告里美及び原告邦夫の損害(慰謝料) 各三〇〇万円

8  よって、被告ら各自に対し、損害賠償請求として、原告慶太は、既払分を除いた金九六八五万二二二七円及びこれに対する本件事故の日の昭和六一年三月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに平成四年一一月一日から同人死亡に至るまで毎月末日限り別紙将来の各月定期給付金月額一覧表記載の各当月分金員の支払を、原告里美及び原告邦夫は、各金三〇〇万円及びこれに対する昭和六一年三月二四日から支払済みまで右と同じ割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)のうち、事故状況については否認するが、被告京子に過失があることは争わない。

(二)  同2(二)の事実は認め、主張は争わない。

3  同3の事実はいずれも認める。

4  同4の事実はいずれも知らない。

損害の認定は、適正な範囲で認められるべきであり、原告慶太の主張は過大である。

(一)  原告慶太の入院期間は、非常に長期になっており、また、原告慶太は別途、療養物品費を請求しているのであるから、入院雑費を認める必要はない。

(二)  現在、原告慶太が入院している大阪脳神経外科病院は、基準看護Ⅰ類の病院であり、健康保険法及び厚生省告示によれば、基準看護が行われる病院にあっては、看護婦等による看護の代替あるいは補充として、看護婦以外の者の付添看護があってはならないものであるから、原告慶太の付添看護は、同病院における治療行為に含まれるべきものであり、その費用を加害者である被告らが負担すべきものではない。付添婦三名による二四時間態勢の監視は、被告らの損害賠償義務の範囲を越えている。

原告慶太の場合、要求の伝達等のために、家族付添の必要性が認められたとしても、人工呼吸器の接続状態の確認については、体位交換の際に注意し、気道内圧が高くならないようにすればよいし、排尿及び排便については、看護婦においても十分に行えるものであるから、家族付添以上の付添は不要である。

(三)  人工呼吸器オーバーホール代及び付属物品代は本来、医療費に含まれるものであり、原告慶太が負担するものではない。

(四)  寝台車及びタクシー代のうち、淀川キリスト教病院受診のための費用は同病院受診の必要性が認められた場合に、認められるべきものであり、家族付添のための費用は、付添費用の中に含まれるものであり、入学式参列のための費用は慰謝料に組み入れられるべきものである。

(五)  原告慶太が自宅で療養することは考えられないが、仮に自宅で療養するとしても、原告慶太が主張する自宅改造は不要である。けだし、現在の玄関によっても車椅子の出入りは可能であり、駐車場の新設も全く不要であり、車椅子の通路のために敷居を撤去することも必要ない。また、原告慶太がベッドから移動して浴室で入浴し、便所で排便をすることは期待できず、終日、寝室にいることから考えて、浴室及び便所の改造、天井レール及び走行リフトの新設は不要であるからである。また、空調機の必要性は認められず、原告慶太をベッドから起き上がらせることもないから、電動式のベッドも必要ない。

(六)  原告慶太の担当医師によれば、原告慶太の余命について、医療設備の整った大阪脳神経外科病院に入院し続けた場合、一五年間であるのであり、原告慶太の主張のとおり、自宅療養に切り替えるというのであれば、右期間は当然に変更がある。

原告慶太は、退院せず、入院を続ける可能性が高く、その間の生活費は控除されるべきであり、その割合は、全期間について五〇パーセントとすべきである。

(七)  翔吾の看護費用は仮に必要としても、同人が小学校に入学するまで認めれば十分であり、賃料増加分については、快適な生活をしている分が賃料増加に反映しているだけである。

(八)  原告邦夫は、昭和六一年秋ころから、夫婦関係が破綻状態となり、離婚に至るような状態であったため、勤務先を退職したのであり、本件事故と同人の退職等との間には、因果関係はない。

(九)  本件事故により、原告慶太が受けた肉体的精神的損害が甚大であることは否定しないが、被告京子においても、一〇〇回余にわたり見舞に訪れ、謝罪を行っている。

原告慶太は、豊中市等から、障害児福祉手当として月一万二七五〇円、特別児童扶養手当として月四万四九〇〇円、身体障害者福祉金月一六〇〇円、大阪府福祉見舞金月一万円を受け取ることができ、交通事故対策センターから日額四〇〇〇円の支払を受けることができる。

これらの事情は慰謝料算定につき斟酌されるべきである。

5  同5の事実はいずれも知らない。

損害賠償請求は、あくまでも現実の損害に対して認められるものであり、将来の定期金請求は不適当であるが、仮にこれが認められるとしても、適正な範囲で控えめに認められるべきものである。

(一)  原告らの主張する医療器具費のうちの、横隔膜ペースメーカーについては、原告慶太の症状に適応があるか不明であるばかりか、横隔膜ペースメーカーの使用は、健康保険給付の認められない試験的治療行為であり、そのようなものの使用についてまで、被告らの損害賠償義務が及ぶものではない。

また、その他の器具については、必要な範囲に応じて、社会保険等により費用負担がされることになっており、原告慶太が個人で負担すべきものではない。

(二)  療養物品費のうち、水分補給費は不要であり、また、排尿排便処理費用を除くその他の費用については、身体障害者医療保障により給付がなされ、原告慶太が個人で負担すべきものではない。

(三)  現在においては、原告慶太は自宅療養をしていないのであり、将来的にも入院療養が必要であるから、現時点において、自宅療養を前提とした付添費の定期金請求はできないものというべきであるが、仮に認められたとしても、原告里美及びその両親が自宅にいる以上、一人分の家族付添費を認めれば十分である。

原告慶太の看護は、人工呼吸器の監視が中心であり、原告慶太の主張は過大である。

6  同6及び同7の主張は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

(一)  被告京子は、本件道路を東から西に向かい、時速四〇キロメートルで進行していたところ、本件交差点手前三〇メートル程度の地点で、同交差点北西角に原告慶太を発見した。

原告慶太は、キョロキョロと辺りを見回していたものの、横断歩道のある同交差点北東側ではなく、反対側の同交差点北西側に立っていたため、被告京子には、原告慶太が本件道路を横断してくるものとは分からず、そのままの速度で進行した。

ところが、加害車が本件交差点にさしかかったところ、突如、原告慶太が小走りで本件交差点を北から南に向け、走ってきたため、被告京子は、原告慶太の行動にあわててしまい、急ブレーキを踏むべきところ、間違えてアクセルを踏み込んでしまった。そのため、原告慶太は、加害車のバンパーからボンネットに乗るようにして、一四メートル西側まで運ばれた。

(二)  本件事故は、幹線道路の横断について、原告里美及び原告邦夫が指導不足であったことにも起因しているものというべきであるから、二割の過失相殺がなされるべきである。

2  損益相殺

被告らは、治療費として五六七九万九一四八円、看護料等として四二一九万二八九七円、仮払として三五三万四三〇七円をそれぞれ、原告慶太に支払った。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(過失相殺)の主張は争う。

原告慶太は、横断歩道上を歩いていたのであり、加害車の対向車線上の本件交差点西側には、原告慶太の横断を待つため停止中の車両があった。また、本件道路は見通しの良い直線道路であり、被告京子は、比較的早くから原告慶太の存在に気付いていたが、制限時速を一〇キロメートル以上も超過した速度で加害車を進行させ、原告慶太が渡るより先に行けると誤認して、アクセルを踏み込んだのである。

そして、原告里美は、原告慶太に対して、いつも連れ歩いて交通規則を教えていた。

これらの事実に、原告慶太が四歳になったばかりの幼児であったこと、付近は、小学校に近い住宅及び商店街であったことを考え併せると、本件において過失相殺はなされるべきではない。

2  同2(損益相殺)の事実のうち、治療費として五六七九万九一四八円、看護料等として四一七一万五七七〇円(被告主張のうちの、平成二年八月八日の四七万七一二七円の支払については否認する。)、仮払として三五三万四三〇七円の各支払がなされたことは認め、仮払分を既払とすることに同意する。

しかし、治療費分については本訴では請求内容としていない。

理由

一被告らの責任について

請求原因1(事故の発生)及び同2(責任原因)(一)(2)及び(二)については当事者間に争いがない。

したがって、被告京子は民法七〇九条により、被告正之は自賠法三条により、それぞれ、本件事故による損害を賠償する責任を負う。

二原告慶太の受傷等について

請求原因3(原告慶太の受傷、治療経過及び後遺障害)の事実は当事者間に争いがなく、<書証番号略>、証人東保肇の証言及び原告里美本人尋問の結果(第一及び第二回)によれば、次の事実が認められる。

1  原告慶太は、本件事故のため、高位の頸髄(頸髄の上部)を損傷したため、呼吸が止まり、四肢が動かないという障害を負うことになった。無呼吸は、遷延性のものであり、常に呼吸ができない状態であるから、呼吸をさせるための補助器具の継続使用が必要である。

この補助器具としては、人工呼吸器が一般的であるが、横隔膜ペースメーカーという器具もある。横隔膜ペースメーカーは、人工呼吸器と異なり、患者が活動の制限を受けないという点で利点がある。

2  原告慶太の症状は固定しているが、遷延性無呼吸に対しては常に人工呼吸をする必要があり、四肢麻痺に対しては他動的に運動させるリハビリテーションをしなければならない。また、非常に感染を起こしやすい状態であるから、それに対する治療が必要であり、そのため、原告慶太は、昭和六三年一〇月二四日に、本件事故直後から入院している大阪脳神経外科病院の集中治療室(ICU)を出てから以降、同病院の中間病室(HCU、集中治療室と一般病室との中間的性格の病室)に入院している。

3  現在のところ、原告慶太は、喉の部分で気管切開をして、人工呼吸器の管とつながれた状態にある。横隔膜ペースメーカーが植え込まれているが、横隔膜を刺激する神経が変性されて刺激を与えても有効な換気量を得られない状態になっている可能性が強く、普段は使われていない。

4  人工呼吸器の管と喉との接合部分は、はめ込み式になっているため、接合部分が緩んだ場合に、気道内圧が高くなったり体位変換を受けたりすると、接合部分が外れることがあり、一日に五、六回程度は外れる可能性がある。接合部が外れたままで、三分程度経過すると、脳が損傷する結果、死亡に至ることになる。

また、気管切開して空気が直接気管から気管支へ入る状態にあるため、慢性的な炎症症状があり、また、喉から気管のなかに入っている管はプラスチックでできているため刺激されるので、痰がたまりやすく、痰が溜まると人工呼吸器からの空気が流れにくくなるため、速やかにタッピングしたり吸引したりして痰を除く必要がある。感染症に感染している際には一〇分おきに一回程度、通常でも一時間に一回程度の割合で痰を除く必要がある。

さらに、原告慶太は、自力で排泄あるいは胃腸に溜まったガスの排出等ができないので、排泄等のため、一日に八ないし一〇回程度、一回三〇分から一時間程度、腹部のマッサージを受ける必要がある。

5  原告慶太は、意識は鮮明であり、意思の疎通もできるから、いわゆる植物状態にあるわけではなく、知能的には普通の発育をすると思われる状態にある。

また、原告慶太は、母親にしか分からない発音ではあるが、発音することはできる。しかし、他の者がそれを理解することは難しい。

三原告慶太の損害(一時金請求分)について

1  入院関係費

(一)  入院雑費

二一三万九六四五円

前記のとおり、原告慶太は、昭和六一年三月二四日以降現在まで入院して治療を受けているところ、右入院期間が極めて長期に及んでいることを考慮すれば、原告慶太が主張する平成四年一〇月三一日までの間に、平均して一日当たり一〇〇〇円程度の雑費を必要としたものとするのが相当である。

これらによれば、本件事故当日から集中治療室にいた昭和六三年一〇月二三日までの九四五日間に必要とした入院雑費の合計は九四万五〇〇〇円となり、また、同月以降、原告慶太が主張している平成四年一〇月三一日までの四年間に必要とした入院雑費の合計の本件事故当日における現価は、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算出すると、次のとおり一一九万四六四五円となる。

(算式)1,000×365×(5.134−1.861)

=1,194,645

(二)  差額ベッド代

二三万七九三〇円

前記のとおり、原告慶太は、昭和六三年一〇月二四日以降、中間病室に入院しており、これは慶太の症状に鑑みて必要なものであると考えられるところ、<書証番号略>によれば、平成二年六月一一日から同年八月三一日までに、室料として合計二三万七九三〇円を必要としたことが認められる。

2  入院付添費

(一)  集中治療室入院中

四二五万二五〇〇円

<書証番号略>及び原告里美本人尋問の結果(第一回)によれば、原告慶太が集中治療室において治療を受けた昭和六一年三月二四日から昭和六三年一〇月二三日までの間に、医師の指示で、原告里美ら親族が原告慶太に付き添ったことが認められ、原告慶太の年齢を考えればこれは主に原告慶太の精神的安定のため必要な措置であったものと認められるところ、以上によれば、この付添を受けるために原告慶太が被った損害は、一日当たり四五〇〇円程度であるものとするのが相当である。

よって、右入院期間である九四五日間の付添費用は、四二五万二五〇〇円となる。

(二)  中間病室転室後

一七九一万九六七五円

証人東保肇の証言によれば、中間病室においては、集中治療室における看護体制と異なり、看護婦が原告慶太に対して割くことのできる時間が限定されてしまうのが現状であることが認められ、これによれば、付添人が原告慶太を監視看護するのはやむを得ないものであるものと認められるところ、前記のとおり、昭和六三年一〇月二四日に原告慶太は中間病室に移ったが、その後も、人工呼吸器の管の監視、排泄等の世話等の必要が続いており、そのため現在に至るまで、一日中の付添看護を継続して受けていたものと認められる。

そして、<書証番号略>、原告里美本人尋問の結果(第一回)によれば、大阪府看護婦家政婦紹介事業組合の看護補助者泊込標準賃金は、昭和六三年六月一日からは一万一〇円、平成二年五月一日からは一万五六九円、平成三年五月一日からは一万一〇一〇円、平成四年五月一日からは一万一五六〇円とされていたこと、原告慶太は同組合を介して職業付添婦の付添を受け、その際の料金は、交渉の結果によって左右されるところがあったものの、右標準賃金によることが多かったことが認められる。

これらの事実に加え、看護婦の看護がまったくなかったわけではなく、原告慶太の付添看護の一部は母親である原告里美が負担していること(証人東保肇の証言及び原告里美本人尋問の結果〔第一回〕により認める。)、前記認定の原告慶太の付添看護の具体的内容等を考えれば、原告慶太は、昭和六三年一〇月二四日以降その主張にかかる平成四年一〇月三一日までの四年間に、一日当たり、平均して、一万五〇〇〇円程度の付添看護費を必要としたものと認めるのが相当である。

よって、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除し、この間の付添看護費の本件事故当日における現価を算出すると、次のとおり一七九一万九六七五円となる。

(算式)15,000×365×(5.134−1.861)

=17,919,675

3  入院関係器具費

(一)  寝具購入費

一四万九三五〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、マットレス、オーバーテーブル及び特殊ベッド購入費用として必要としたことが認められる。

(二)  人工呼吸器関係費

六六万四三〇六円

<書証番号略>並びに弁論の全趣旨によれば、人工呼吸器オーバーホール代及び人工呼吸器付属品(バクテリアフィルター、ポーテックスダブル回転コネクター、エルボ及びアダプター)代として、六六万四三〇六円を支出したことが認められる。

(三)  オムツカバー代について

この費用については、既に入院雑費として評価済みである。

(四)  頸椎固定器具購入費

二万四四三〇円

証人東保肇の証言及び<書証番号略>によれば、原告慶太は、頸部の固定のため、装具を必要とし、そのために右の支出をしたことが認められる。

4  寝台車及びタクシー代について

淀川キリスト教病院受診のための寝台車料については、受診の必要性が明らかではなく、家族付添のためのタクシー代は、家族付添費の内訳として評価済みであり、その余のタクシー代については、その支出の必要性が明らかではないから、いずれも認めることはできない。

5  家屋改造費について

未だ中間病室に入っている原告慶太の症状の程度に加え、原告慶太の延命については、病院の設備とスタッフの充実に依存しており、呼吸管理を受けることを前提として余命が一五年程度と予想されるものであると主治医が考えていること(<書証番号略>、東保証言調書二七丁裏、同三〇丁裏)、退院についての主張がなされて以来の経過(未だに原告慶太が退院したものと認めるに足りる証拠はない。)等を考えると、原告慶太が今後、自宅療養に切り換えることには疑問がある(この点についての原告里美の供述は、必ずしも信用性が高いものとは考えられず、また、この点に関する<書証番号略>の記載は、継続的な自宅療養が可能であるとの趣旨か判然とせず、また、これを記載した証人東保肇の証言に照らしても必ずしも信用できない。)ばかりか、原告慶太が感染症への感染等の危険を常に有していることに鑑みれば、仮に自宅療養に切り換えられたとしても、一時的なものになる可能性が高いものというべきである。

よって、原告慶太が今後、長期間にわたり自宅療養に入る高度の蓋然性を認めることはできないから、自宅療養を継続することを前提とした家屋改造費の請求を認めることはできない。

6  逸失利益

二四七五万九五五一円

前記のとおり、原告慶太は今後も入院療養を続ける蓋然性が高いものと考えられるところ、証人東保肇医師は、入院療養を前提に考えた平成四年現在における原告慶太の余命見込は一五年程度であるとの意見を述べており(<書証番号略>)、これに現在の原告慶太の状態は安定傾向にあること(<書証番号略>等により認めることができる。)等を考慮すると、原告慶太は、少なくとも、満二五歳までは生存することが可能であるものというべきであるから、当裁判所に顕著な事実である平成三年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・男子一八歳及び一九歳の平均年収二三一万六九〇〇円を基礎に、満二五歳以降六七歳までについては、生死が明らかではないのでよい控えめな認定として、生活費控除に準じて五割を減額した上、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告慶太の本件事故による逸失利益の本件事故当時における現価を算出すると、次のとおり二四七五万九五五一円となる。

(算式)2,316,900×(14.104−10.409)

+2,316,900×(1−0.5)×(28.087−14.104)

=24,759,551

(小数点以下切り捨て)

7  佐向翔吾関係の損害

(一)  看護費用

四一六万二七五二円

原告里美本人尋問の結果(第一回)によれば、原告慶太の弟の翔吾(昭和五八年六月一四日生)は、原告里美の監護を受けていたが、同原告が原告慶太の付添をしなければならなくなった結果、原告里美の母であり原告慶太の祖母に当たる石間伏美代子が翔吾の監護をすることになったことが認められる。

また、原告慶太の年齢等を考えれば、原告里美自身が原告慶太の付添に当たるのはやむを得ないものというべきであるから、翔吾の監護のために別に必要となった出費をも本件事故によるものとするのが相当であるところ(ただし、これを原告慶太の損害とすべきかは検討の余地があるところではあるが、被告らはこの点につき特に争っていないので、原告慶太の損害として扱うこととする。)、その費用として一日当たり原告主張の三二〇〇円程度が必要であり、また、少なくとも、翔吾の監護は、翔吾が小学校に入学するまで必要であるものとするのが相当であるから、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、本件事故以後翔吾が小学校に入学した平成二年までの看護費用の本件事故当日における現価を算出すると、次のとおり四一六万二七五二円となる。

(算式)3,200×365×3.564=4,162,752

なお、原告らは、翔吾の監護は満一〇歳まで必要である旨主張するが、小学校入学程度の年齢に至れば、一応の事理弁識能力も備わる程度となるものと考えられ、また、法律上も小学校入学前後において、監護の必要性に関して異なる扱いをしていること(児童福祉法二四条参照)からすると、監護が必要不可欠なのは右認定の程度であるものと考えられる。

(二)  翔吾監護のための家賃増加分について

かかる費用については、既に翔吾監護費用として評価されているものというべきであるから、さらに独立した損害として評価することはできない。

8  原告佐向邦夫失業等による損害

仮に、原告邦夫が原告慶太の手術に立ち会ったとしても、それは親族間の愛情に基づくものというべきであって、慰謝料算定の際に斜酌すべき性質のものであり、また、原告慶太の付添看護については、別に損害として考慮しているのであるから、独立した損害として考えるのは相当ではない。

9  慰謝料 二二〇〇万円

前記の原告慶太の受傷内容、治療経過、後遺障害の内容及び程度(本件事故により同人の生存可能年数が制限されたものと考えられることを含む。)、年齢等の他、本件事故の態様、原告慶太の家族構成等、弁論に現れた諸事情を考慮すると、本件事故により原告慶太が受けた精神的、肉体的損害に対する慰謝料は、二二〇〇万円が相当である。

四原告慶太の損害(定期金分)

不法行為の被害者が不法行為による障害のために将来にわたって損害を受けることが予想される場合には、予想される期間につき発生するものと認められる損害額から中間利息を控除した額を既発生の損害とした上、一時の支払請求としてこれを認める方法が一般的であるが、このことは、必要な額につき定期金として支払請求をすることができないことを意味するものではなく、被害者がかかる方法を選択した場合であって、将来の給付を求める訴えとしてあらかじめその請求をする必要性が認められるときには、これを認めることができるものと解するのが相当である。

そして、本件においては、被告らは、原告慶太が主張する各費用の額につき争っているので、あらかじめその請求をする必要は認められる。

1  医療器具費

証人東保肇の証言によれば、原告慶太が将来必要な医療器具として主張するもののうち、横隔膜ペースメーカーについては、医師の判断として、将来的に再度埋め込みを行う見込みはなく、また、人工呼吸器については、入院を継続する限り将来的に人工呼吸器本体を買い換える必要はないことが認められる(同調書二九丁裏から三〇丁表)から、原告慶太が入院を継続する蓋然性が高いことを考えると、これらについての主張は理由がない。

しかし、その余の医療器具については、<書証番号略>によれば、吸引器は五年の、頸椎固定器具は六か月の、車椅子は三年の耐用年数があることが認められ、前記認定のとおり頸椎固定器具を原告慶太が購入していること及び原告慶太の症状等からして、これらの医療器具については、将来にわたり原告慶太が購入しなければならないものと推認され、さらに同証拠によれば、その購入費用は、吸引器が一二万円、頸椎固定器具が二万五〇〇〇円、車椅子が一〇万円であることが認められる。

これらによれば、原告慶太は、平成四年一一月一日以降死亡に至るまで、少なくとも、一か月九〇〇〇円の医療器具費を必要とするものと認めるのが相当である。

2  療養物品費

(一)  原告慶太が将来の療養のために必要な費用として主張するもののうち、人工呼吸器付属品(バクテリアフィルター、ポーテックスダブル回転コネクター、エルボ及びアダプター)代及び人工呼吸器オーバーホール代については、前記認定のとおり、原告慶太が自ら費用負担をしていることが認められ、これによれば、同様に、将来にわたって原告慶太が自ら費用負担をする必要があるものと推認される。

また、フレックスシリコンチューブ及び加温加湿器については、<書証番号略>によれば、人工呼吸器の構成部品であることが認められ、<書証番号略>及び原告里美本人尋問の結果(第一三回口頭弁論原告里美調書一六丁)によれば、その費用は原告慶太が負担しているものと認められるから、これらによれば、同様に、将来にわたって必要とするものと推認される。

そして、<書証番号略>によれば、一年当たりの費用として、バクテリアフィルターは九万円程度、ポーテックスダブル回転コネクターは二万二四〇〇円程度、エルボは三八〇〇円程度、アダプターは九五〇〇円程度をそれぞれ必要とし、フレックスシリコンチューブについては、六〇〇〇時間の耐用時間で価格は七万八〇〇〇円であり、加温加湿器については、六〇〇〇時間の耐用時間で価格は二二万円であることが認められる。また、人工呼吸器オーバーホール代については、<書証番号略>と<書証番号略>を対比すると、平成二年六月にオーバーホールがなされた後、平成三年一一月までには、少なくともその次のオーバーホールがなされているから、長くとも一七か月毎に必要であるものと推認され(この点についての<書証番号略>の記載は、<書証番号略>に照らし信用できない。)、一回当たり四六万三五〇〇円程度を必要とする(<書証番号略>)ものと認められる。

(二)  しかし、原告慶太が将来の療養のために必要な費用として主張するもののうち、横隔膜ペーシング用電池、蒸留水、0.5%ヒビテンアルコール、滅菌グローブ、綿角、イソプロピルアルコール、マスキン液、流動食については、自宅療養の場合には医師も必要としているものの(<書証番号略>)、入院を継続する蓋然性が高い原告慶太の場合に、これらの物品個々それぞれについて原告慶太が費用負担をしなければならない必要性があるのかは不明であり、綿球及び0.05%ヒビテンGについても、右の物品と同様の性質のものと考えられるから、右と同様に考えられる。また、排尿排便処理費(おしめ)についても、<書証番号略>には、医師あるいは病院事務関係者の証明として、その費用及び必要枚数についての記載があるが、<書証番号略>によれば、これについては、原告慶太が直接購入して使用しているものと認められ、事柄の性質上、右の証明に信用性はないものと考えられる。

ただし、実際に原告慶太が、入院生活を継続する以上、これに伴う療養物品費あるいは雑費は当然必要とするものというべきところ、右のような物品についての費用も、このような視点から全体としてみれば、その必要性を肯定できるところであるから、原告慶太の症状等に鑑みて、将来にわたり、相当な費用を必要とするものと考えられる。

(三)  次に、水分補給費については、医師もその必要性を否定しているから(東保証言調書二四丁裏)、これを本件事故による損害と考えることはできず、ポーテックス・サーモベントTについては、全証拠に照らしてもいかなる物か判然とせず、その必要性を認めることはできない。

(四)  以上を総合考慮すれば、原告慶太は、平成四年一一月一日以降死亡に至るまで、療養物品費として、少なくとも、一か月当たり一三万円を必要とするものとするのが相当である。

3  付添看護費

前記三2記載の事実によれば、職業付添婦による付添費用が、将来的に低額化に向かうことはないものと推認されるところ、これらに加え、原告慶太が将来にわたり入院を継続する蓋然性が高いこと、現在のところ、原告里美及び同人の妹(原告慶太の叔母)に当たる石間伏久代が原告慶太の付添をすることが専らであること(第一三回口頭弁論原告里美調書三四丁)、原告慶太は、簡単な意思の伝達であれば看護婦等との間でも可能になってきていること等を併せ考慮すると、原告慶太は、平成四年一一月一日以降死亡に至るまで、付添看護費として、少なくとも、一日当たり二万円程度、一か月当たり六〇万円を必要とするものとするのが相当である。

なお、原告慶太は、年四パーセントの割合での増額を主張するが、必ずしも将来にわたってかかる増額が続くか否かはまったく不明であるから、右主張は採用できない。

五原告里美及び原告邦夫の慰謝料

原告里美 三〇〇万円

原告邦夫 一〇〇万円

原告里美本人尋問の結果(第一及び第二回)及び弁論の全趣旨によれば、原告里美は原告慶太の母であり、原告邦夫は原告慶太の父であって、原告里美及び原告邦夫は、平成三年九月二四日協議離婚し、原告里美が原告慶太及び翔吾の親権者となったことを認めることができ、加えて以上認定の事実によれば、原告里美及び原告邦夫は、本件事故により、四歳の子に頸髄損傷等の重傷を負わされ、四肢麻痺及び無呼吸という重度の後遺障害をもたらされ、その結果、原告慶太の余命も制限されることとなったのであるから、子の死亡にも比肩するような精神的な苦痛を被ったものというべきであり、さらに、原告里美は親権者として、本件事故以後将来にわたり、原告慶太の付添を続けなくてはならず、これらの精神的肉体的苦痛に加え、原告らの家族構成等その他弁論に現れた諸事情を考慮すると、原告里美及び原告邦夫に対する慰謝料としては、右の金額が相当である。

六過失相殺

被告らは、本件事故の具体的態様について、被告京子が本件道路を東から西に向かい時速四〇キロメートルで進行していたところ、本件交差点手前三〇メートル程度の地点で同交差点北西角に原告慶太を発見し、原告慶太は、キョロキョロと辺りを見回していたものの、横断歩道のある同交差点北東側ではなく反対側の同交差点北西側に立っていたため、被告京子には原告慶太が本件道路を横断してくるものとは分からずそのままの速度で進行したが、加害車が本件交差点にさしかかったところ、突如として原告慶太が小走りで本件交差点を北から南に向け走ってきたので、被告京子があわててしまい間違えてアクセルを踏み込んでしまったため、原告慶太が加害車のバンパーからボンネットに乗るようにして、一四メートル西側まで運ばれたものと主張するが、主張の事実関係を前提としても、被告京子が、慶太が狩立したままであると軽信し、また、ブレーキを踏まずにあわててアクセルを踏み込んだ点で極めて重大な過失があるものといわざるを得ず、このことに加え、本件事故現場の道路が、車道の幅が九メートル程度で、周囲には住宅等がある市街地である等の状況にあり(<書証番号略>)、原告慶太が当時四歳であったこと等を考え合わせれば、本件事故発生について、仮に原告慶太側に落ち度があったとしても、被告京子の過失に比して些細なものであって、過失相殺をしなければならないものとは認められず、他に過失相殺をしなければならない事情も認められないから、その余の点につき判断するまでもなく、被告らの右主張は失当である。

七損害の填補

平成二年八月八日の四七万七一二七円の支払を除き、被告らが原告慶太に対して、看護料等として四一七一万五七七〇円、仮払として三五三万四三〇七円の支払をしたことは当事者間に争いがなく、被告ら及び原告慶太は、仮払分を損害の填補とすることに合意しているところ、<書証番号略>によれば、平成二年八月八日に、被告らから原告慶太に対し四七万七一二七円の支払がなされたものと認められるから、以上合計の四五七二万七二〇四円は、損害の填補として、以上認定の一時金請求分の損害合計七六三一万一三九円から控除すると、原告慶太が支払を求めることのできる一時金分の残損害は、三〇五八万二九三五円となる。

なお、被告らは、治療費として五六七九万九一四八円を支払ったことも主張するが、本訴において、原告慶太は治療費について請求しておらず、また、右支払が以上認定の損害に対応する損害の填補として支払われたことも認められないので、右金額については、損害の填補として控除することはしない。

八弁護士費用 三五〇万円

原告慶太が、本件訴訟の提起及び追行を原告慶太訴訟代理人に委任したことは本件訴訟上明らかであり、本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、本件事故による損害として原告慶太が賠償を求め得る弁護士費用の額は、三五〇万円とするのが相当である。

九結論

以上の次第で、被告ら各自に対する本訴請求は、原告慶太が金三四〇八万二九三五円及びこれに対する本件事故日である昭和六一年三月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払並びに平成四年一一月から原告慶太が死亡するまで毎月末日限り金七三万九〇〇〇円の支払を、原告里美が金三〇〇万円及びこれに対する本件事故日である昭和六一年三月二四日から支払済みまで右と同じ割合による遅延損害金の支払を、原告邦夫が金一〇〇万円及び右と同じ日から右と同じ割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから、これらをいずれも認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官林泰民 裁判官大沼洋一 裁判官小海隆則)

別紙

将来の各月定期給付金額一覧表

期   間

月額金額

平成 四年一一月一日から

平成 五年一〇月末日まで

一、四八八、二一八円

平成 五年一一月一日から

平成 六年一〇月末日まで

一、五二九、八三四円

平成 六年一一月一日から

平成 七年一〇月末日まで

一、五七三、一一四円

平成 七年一一月一日から

平成 八年一〇月末日まで

一、六一八、一二五円

平成 八年一一月一日から

平成 九年一〇月末日まで

一、六六四、九三七円

平成 九年一一月一日から

平成一〇年一〇月末日まで

一、七一三、六二一円

平成一〇年一一月一日から

平成一一年一〇月末日まで

一、七六四、二五三円

平成一一年一一月一日から

平成一二年一〇月末日まで

一、八一六、九一〇円

平成一二年一一月一日から

平成一三年一〇月末日まで

一、八七一、六七三円

平成一三年一一月一日から

平成一四年一〇月末日まで

一、九二八、六二七円

平成一四年一一月一日から

平成一五年一〇月末日まで

一、九八七、八五九円

平成一五年一一月一日から

平成一六年一〇月末日まで

二、〇四九、四六〇円

平成一六年一一月一日から

平成一七年一〇月末日まで

二、一一三、五二五円

平成一七年一一月一日から

平成一八年一〇月末日まで

二、一八〇、一五三円

平成一八年一一月一日から

平成一九年一〇月末日まで

二、二四九、四四六円

平成一九年一一月一日から

原告 慶太死亡に至るまで

二、三二一、五一一円

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